Vol.57 2021年1月1日発行


「トランプは石炭を掘る」


はちどり 巻頭文 理事長 浜島昭二

Vol.61 2022年1月1日発行
COP26 (一部紹介)

国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が昨年の1031日から1113日までスコットランドのグラスゴーで開催されました。この会議の目的は、気候変動の壊滅的な影響を回避するために世界は何をしなければならないかを議論し、決定することでした。とにかく地球全体で気温が上がっていて、そのために異常な高温、極端な少雨と干ばつ、森林火災、かと思えば大雨、洪水、海面上昇による島の消滅など災害が頻発している。このままでは大変なことになる。これは自然が処理できる以上の温室効果ガスを我々人間が出したためなので、各国事情はあるだろうが、みんなで力を合わせてガスの排出を減らし、同時に、CO2を吸収してくれる地上とそして海の中の緑を護り、復活しなければならない。

ようやく21回目の会議COP21(2015)で締結されたのがパリ協定で、産業革命前からの気温上昇を「明確に2℃以下、できる限り1.5℃以下」に抑えるべく温室効果ガスとくにCO2の排出削減に努力することで世界が合意しました。なぜ産業革命前を基準にするかというと、ここから大気中のCO2濃度が急激に上昇し、数千年間比較的安定していた気温が上がっているからです。
しかし2℃という数値を残しておくと危ない、1.5℃の目標を達成するためには、世界のCO2排出量を2050年までに実質ゼロ(カーボン・ニュートラル、カーボン・フリー)に、2030年までに2010年比45%減が必要と言われるようになりました。それに向けて各国は削減目標(NDC=国が決定する貢献)を決め、会議の9
12カ月前までに条約事務局に提出することになっていました。しかし各国が見直した2030年までのCO2削減目標では、1.5℃どころか2℃も達成困難で、せいぜい2.7℃までだろうと事務局が計算し、これを基にグラスゴーでさらなる削減策を議論することになっていたのです。その結果を検討する前に、国際社会のこれまでの動きを整理しておきたいと思います。

科学としての気候変動研究
気候変動というのは、地球上で気温、降雨、海流といった要素が長期間にわたって変化することで、ここ数十年の観測と科学的研究により証明されています。地球温暖化は気候変動の一例で、大気中のCO2の濃度が急速に上がったためです。

地球の気候は主に温室効果によって変わります。太陽の光は自然のガスや雲に吸収され、一部が地上に跳ね返されます。これによって地球は温暖に保たれるのです。もし温室効果がなければ地球は凍りついてしまい、人間が暮らすことはできません。最も重要な温室効果ガスの一つであるCO2の値は何世紀にもわたって安定し、その結果として、大雨、洪水、干ばつ、冷夏といった異常気象は数々発生しましたが、全体として気候は安定し、人間は文明を発達させることができたのです。「楽園だった」という言い方をする研究者もいます。

ところが今、地球上の生命ひいては人間文明の存続を脅かすようになってきた気候変動は、たとえば太陽の光が弱まるといったような自然現象では説明できず、人間が原因と考えざるを得ないものです。産業の発展とそれに伴う石炭、石油といった化石燃料を燃やすことによって、自然に発生する倍の量のCO2が大気圏中に排出されるようになったからです。さらに、CO2を吸収し、これを固定しておく上で重要な役割を果たす森林の過剰伐採も温暖化をまねく人間の行為です。



Vol.60 2021年10月1日発行
天変地異 (一部紹介)
北海道より北にあるカナダの渓谷にまるで砂漠地帯のような気象条件が出現したのですから世界中の気象学者がビックリしましたが、そこに異常な乾燥も加わって火災が発生しました。通過する列車から飛んだ火花が線路脇の藪に火をつけたのではないかと推測する人もあるようです。午後6時、村長は避難指示を出しました。

乾燥し切った村で火はまたたく間に広がっていき、ポルダーマン村長は15分で村全体が火に包まれたとCBCニュース(名古屋のCBCではなくカナダの公共放送です)のインタビューに答えています。数時間後にはほとんどの建物が跡形もなく焼失、村は無くなってしまいました。

北米西海岸の高温と異常乾燥は予想を超えるもので、このブリティッシュ・コロンビアや米国のワシントン州、オレゴン州では記録的な高温が報告され、中にはこれまでの最高気温を5℃上回るところもあります。この小さな村リットンは一夜にして気候変動のシンボルになってしまいました。太平洋の島国キリバスが沈んでしまうとか永久凍土の上に建てられたシベリアの建物が傾いてきているという話は多くの人が知るようになってきましたが、夏でも涼しいカナダの山村にこんな事が起きるとは誰も想像していませんでした。リットンがそうなら、もうこれはどこでも起きうることです。

森は本来、降った雨を地中に溜め、根からそれを吸い上げた樹木はこれを水蒸気として空中に吐き出します。その水蒸気は雲となり、再び雨として降ってきます。この水分の循環の恩恵を農業つまり我々人間が受けるのです。古くなった木が枯れればそこに新しい芽が出て、森は自然に再生していきます。
この自然の再生をできなくしているのが酪農や大豆栽培のための農地を増やすための大量伐採と意図的な森林火災です。この地域は以前から産業振興を名目にインフラ整備も含めた様々な開発事業が進められ、生態系破壊の懸念から厳しく批判されてきましたが、気候変動に懐疑的な現在のボルソナーロ大統領が国内外の批判を無視して環境規制を緩め開発を促進する政策を強化するようになってさらに森林消失が加速しています。

熱帯雨林の消失が回り回って農業を困難にする事態がすでに始まっています。ブラジルの農業地帯に降る雨の多くは森林が吐き出した水蒸気が元になっています。この「空の川」の水量はアマゾン川の水量に匹敵すると言われますが、それが涸れつつあります。農業だけでなく森にも水が不足してきているのです。

いま研究者が恐れているのは、この相互作用が自動的に進んでしまうことです。森が枯れることで空の川が枯れ、それがさらに森林の草原化を促進するという事態がまさに転換点です。そうして熱帯雨林は自動的に消滅してしまうのです。熱帯雨林の変化を観察しているブラジル国立宇宙研究所の研究者の計算によれば、本来の面積の40%が伐採されてしまうと草原化はもはや止めることができません。気温が4℃上昇しても同様の影響があります。しかし、温暖化と伐採が同時に進行している現状と道路の建設や地下資源の採掘が森に与えるストレスを考えるとレッドラインは25%だろうと研究者は計算しています。これまでですでに20%の森が消失していますから、限界までもうあまりありません。それどころか、エルニーニョが発生する年ではすでに、アマゾンの熱帯雨林が排出するCO2の量は、吸収する量よりも多くなっているのです。


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Vol.57 2021年1月1日発行
トランプ政権の環境政策と民主主義の危機(一部紹介)

昨年113日に行われた米大統領選挙で現職のトランプ氏(以後は肩書、敬称は基本的に省略。他の人物については初出時と文脈により肩書)は民主党候補のバイデン元副大統領に敗れました。しかし、その後も彼は、我が国メディアでも詳細に報道されているとおり、選挙で不正があったとして敗北を認めず、開票作業のやり直しを求めたり、裁判に訴えたりして抵抗し、身内の共和党の中からも批判の声が出始めていますが、まだまだ少数です。なぜそうなのかは後で検討したいと思いますが、トランプは残り数週間となっても駆け込み的に国防長官の解任、有罪判決を受けて収監中の友人や元部下の恩赦あるいは米軍の海外紛争地域からの撤退など矢継ぎ早に大統領令による政策を実行しています。後任のバイデンがもう元に戻せないところまで既成事実を作っておいて、その失敗をネタに4年後の選挙を有利に進めるためであるとの見方もあります。

(中略)
アラスカでは大統領選のさなかにも大きな動きがありました。昨年827日、ワシントン・ポスト紙がマイク・ダンレヴィ・アラスカ州知事の話として、トランプが南東部にあるアメリカ最大の国立公園であり、1000年にわたって大切に保護されてきたトンガス国営自然林680万ヘクタール(68,000km2)のうちほぼ九州の面積(36,780km2)に当たる380万ヘクタール(38,000km2)を伐採禁止対象から除外するつもりであると報じました。この森林の大部分はtemperate rain forest(温帯雨林)と呼ばれ、気候にとって重要であるとともに多くの生き物の生息地でもあります。保護規定が無効化されてしまえば伐採が進み、地下資源、エネルギー資源の採掘が進みます。クリントン大統領は2001年にその半分以上の地域での道路建設や商業目的の伐採を禁止しました。次のブッシュ大統領はこの規制を撤廃しようとしましたが、裁判所がこれを禁じました。トランプはその他にもいくつかの国立公園を大統領令によって縮小し、有名なグランド・キャニオンの周辺でもウランを初めとする鉱物の採掘を許可しようとしていると昨年8月に米メディアが報じ、民主党のバイデン候補は、そんなことはさせないと批判しました。アメリカ先住民(インディアン)の集落がユネスコの世界文化遺産に認定されているニュー・メキシコでもトランプ政権により石油の採掘が認可されました。

そして冷静な知的努力によってのみ維持可能な民主主義が日常感覚の中にある古い価値観によって否定されるというこの危機は、超大国アメリカでトランプ政権が生まれ、今回の選挙でも、敗れはしたものの拮抗したことで、トランプをお手本とする東欧の強権的政治指導者や西欧のナショナリスト・差別主義者は意を強くしたことでしょう。トランプの宣伝文句とは異なり、ほとんどの米国人が地球温暖化が紛れもない事実であると理解しているにも関わらず、選挙に勝つために緊急に必要な政策が採られないという状況は民主主義のジレンマでしょう。