豊明市北部にある勅使池は、1528年後奈良天皇が左中将経広卿を勅使として、祐福寺へ綸旨をくだし、勅使が工事の監督をしたと伝えられ、勅使の名が残っている。やがて1643年には、沓掛新田開発に伴って下池(1962年愛知用水路の完成に伴い埋め立てらた)が開削された。
その間1560年には、桶狭間にて駿河遠江三河を支配下におさめていた今川義元率いる25,000の大軍が、尾張の織田信長が率いるわずか3,000の軍勢に惨敗した合戦が繰り広げられた。その後、若王子池は1655年に開削され、堤防近くから1974年に西岸で古墳時代の集落跡が発見されている。
豊明市には多数のため池があり、それらのため池は周囲の田畑と調和した日本人の原風景として私たちの心に焼き付いた風景であり、農業遺産でもあります。今まで農業の継続により、国土保全、水源涵養、景観形成、農業遺産の継承、文化伝承など、農業生産活動が行われることにより、さまざまな価値が生み出されてきました。それを家族農業が担ってきました。
近年、都市化が進んだ市内における貴重な自然を維持する農用地の面積は減少しています。農用地の内の経営耕地面積は、田が全体の約70%を占めています。
図1は豊明市の経営耕地面積が、1980年から2010年にかけて減少しており、1980年には田が478ha有りましたが、2010年には221haと46%に減少しています。畑は1980年に139haでしたが、2010年には66haと47%に減少しています。2010年以後も減少は止まっていません。
我が国の農業政策を振りかえって見ると、図2に示しますが、20世紀後半、環境保全型農業へ農業の近代化(機械化、化学肥料・農薬の普及、品種の開発)に伴い土壌が疲弊し地力が無くなり、1984年に「地力増進法」が制定されました。国連では2015年に「国際土壌年」そして、毎年12月5日を「土壌の日」と定めています。
1999年に食料・農業・農村基本法が制定されると、都市農業は農業政策上の振興対象として明確化されました。2015年に都市農業振興基本法が施行され、2016年に同法に基づいて、国は都市農業振興基本計画を策定しています。この基本計画で都市農地の位置づけを、都市に「あるべきもの」へと大きく転換され、都市農業の振興に向けた施策の方向性が示されています。農林水産業の成長産業化を図るため、これまで生産性の向上、耕作放棄防止や解消、米政策改革など農業生産現場の強化のための取り組みなどの推進が試みられてきました。
図3は豊明市の専業・兼業別農家数を示しています。1980年代から農業以外の仕事からの収入が多い第2種兼業農家の割合が高いです。1995年からは第2種兼業農家と、販売農家の基準を満たさない自給的農家が折半状態ですが、最近は自給的農家の戸数が多くなってきています。小規模な家族農業経営は今後も地域農業の中心的存在ではありますが、高齢農家や兼業農家の減少と同時期に、集落営農または集落営農法人の設立が進んでいるようです。今後は、集落営農も地域農業の維持・発展に重要な役割が期待され、規模の大きい経営体が稲作を担う構造に転換しつつある状況です。
豊明市では、農地バンクにより規模拡大希望農家及び新規就農者への斡旋を推進しており、2018年1月末現在で14.2haが登録されましたが、登録に対して借りたい人が少ない状況が続いているようです。また、市民が自然と触れ合う場としての市民農園は2018年度には135区画整備されています。今こそ、家族農業が一層発展できるような方策・環境づくりが必要です。豊明市で家族農業の素晴らしさや重要性を体感できる農地を増やすために、市民農園の活動を活発に行い次世代に伝承するために、子どもから、高齢者まで巻き込んだ、楽しい活動が重要です。
国連の「家族農業の10年」については、私自身は昨年の12月に『新生「菜園家族」日本』を読んで、初めて知りました。2010年に国連で、世界の飢餓、食料危機、気候変動などに対する政策転換として、小規模・家族農業が時代の最先端で効率的なことが認識され、2014年に国連が「国際家族農業年」と定め、2015年にはSDGsが国連サミットで採択されました。SDGsは2016年から2030年までの国際目標であり、明確な評価軸が備わり、家族農業の意義、重要性がより明確になってきました。そして2019年から国連「家族農業の10年」がスタートしています。この国連「家族農業の10年」をバネとして、私たちの身近に存在する市民農園を活用して、農業や農業政策に対する理解の醸成を図ることが期待できます。家族農業の多様な役割として新鮮な農産物の供給や農業体験・学習・交流の場の活用、そして良好な景観の形成などがあげられます。また、農地や環境の保全、災害時の防災空間などに対する市民の理解の醸成に取り組む必要があります。
近年、家族農業の素晴らしさを評価できる人たちが少なくなっているのが問題です。もっとも身近な、食生活を持続可能な消費活動へ転換することにより、家族農業の重要性が理解できるようになると思います。私たちは、食物の多くを購入して消費しています。食品の生産から消費までの過程が持続可能であるべきで、その目標は、SDGsの目標12「つくる責任・つかう責任=持続可能な生産消費形態を確保する」に掲げられています。より良い選択により、健康な生活は、病気のリスクを減らすだけでなく、気候変動の緩和にも役立ち、生物多様性の保全にも寄与します。また、日本の伝統的な食生活は健康につながり、現代の欧米化した食生活は改善の余地があることに、多くの人が気づいて来ると思います。さあ、田んぼ・畑に出て楽しもう!!
参考資料
1. 小貫雅男・伊藤恵子『新生「菜園家族」日本』本の泉社 2019年
2. 小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン編『国連「家族農業の10年」と「小農の権利宣言」』農文協ブックレット、2019年
3. 鷲谷いづみ「実践で学ぶ〈生物多様性〉」岩波ブックレット、2020年
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